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アフターコロナのニューノーマル〜小売店が取るべき対策とは〜

「ニューノーマル(新常態)」とは、これまで異常と見なされていたものが正常と見なされるようになり、以前の姿には戻れない不可逆な変化の事を指す言葉です。

世界を未曾有の事態に直面させた新型コロナウイルスは、人間の営みにおけるあらゆる側面で、今まさに多くのニューノーマルを生み出そうとしています。

これまで導入を足踏みしていた企業も多いであろうリモートワークが一気に広がったことや、全国の学校が休校を余儀なくされたことで、オンライン教育の重要性がかつてないほど注目されていることも、その一例と言えるでしょう。

そしてニューノーマルの波は、昔からの商慣習に縛られることも多い流通小売業界も例外なく飲み込もうとしています。コロナウイルスの影響はあらゆる企業が業績に大きなダメージを受けている、ということだけではないのです。

収束がいつになるのかまだ誰もわからない状況ですが、いずれ落ち着きさえすれば、流通小売業全体の売上は徐々に上向いていくでしょう。しかし、その「中身」は、“ビフォーコロナ”とは全く異なっているかもしれません。

新型コロナウイルスが流通小売業に突きつけた課題とは何か。そして、“アフターコロナ”にはどんなニューノーマルが待ち受けているのか。それに対する対策とは。多角的な視点で解説していきます。

目次:

世界が直面しているかつてない流通小売業の危機

AIを駆使した店舗分析サービスを展開するABEJAによれば、同サービスを実装する全国小売店の売上は3月12日の時点で約50%減となっていました。その後、4月7日に緊急事態宣言が出た後ではさらに悪化しているであろうことは想像に難くありません。

株式会社ABEJA発表 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000095.000010628.html

海外に目を向けると、全米レストラン協会(NRA)は米国のレストラン業界の売上が7月までに2250億ドル(約24兆4000億円)失われると試算しています。

最初に新型コロナウイルスの流行が始まった中国は、すでに回復局面に差し掛かったと見られているとはいえ、1~2月の小売業における売上高は20.5%減と、歴史的落ち込みを見せました。

これらは言うまでもなく、消費者が外出しなくなったことに伴い、小売店舗や飲食店が意図する、しないに拘らず休業を余儀なくされたことが原因です。

新型コロナウイルスが突きつけた小売業界の課題

一方で、外出を自粛することになった消費者は、オンラインでの「巣ごもり消費」に走る傾向が顕著となり、小売業全体でいえばECの売上は堅調に推移していたと言えます。

しかしながら、ECサイトを持っていれば業績が安泰だったかというと一概にはそうは言えません。なぜなら、世界的に経済活動が滞っている中では、商品を調達することもままならないという場合が多いからです。さらには、慣れないリモートワークの元では、ECの運営を滞りなく行うことが難しい、といった課題に直面した企業も多いのではないでしょうか。

全体的に厳しい状況を強いられている実店舗の中で唯一、売上が増加したスーパーマーケットやドラッグストアなど生活必需品を扱う店舗では、「パニック消費」のために人が殺到するという事態も多く発生し、非常時における在庫管理の効率化やリソース不足という課題が顕著に現れています。

“アフターコロナ”に到来するニューノーマル

新型コロナウイルスが収束し、再び自由に外出できる世界になったときに訪れる小売業界の“ニューノーマル”とは、どんなものになるのでしょうか。上記項目の課題から予測して見ます。

ECサイトにおける購買の増加

これまでECをそれほど利用してこなかった消費者も、今回の外出自粛という状況の中でECの利便性を体感した可能性は高いと言えます。そして、一度その利便性を知った消費者は、店舗に行く余程の理由がない限り、企業の都合などお構いなく、ECサイトでの買い物を選ぶでしょう。この点については、“ビフォーコロナ”のうちからオンラインチャネルを整備していた企業とそうでない企業で明暗が別れる可能性もあります。

リアル店舗に対するニーズは「体験重視」に

オンライン消費に軸足があったとしても、リアル店舗が要らなくなる訳ではありません。その役割は、ただ商品を販売する場から、より「リッチな体験を提供する場」へと移行します。

緊急事態宣言が解かれ、外出自粛の必要がなくなった後しばらくは、少し前の時代のように、「買い物に出かける」こと自体がエンターテインメントとして機能するでしょう。しかし、それはあくまでも一過性のものです。

オンラインでは再現できないブランド体験や、インフルエンサー的なスタッフとのコミュニケーションなど、リアルな場だからこそ活きる「何か」、言い換えれば「そこを訪れる明確な理由」がアフターコロナにおけるリアル店舗には求められます。そして、それを持つことは、オンラインチャネルでの販売にも確実に良い影響を与えます。リアル店舗における顧客の体験を重視する米国百貨店大手のノードストロームでは、オンラインでの売上高の1/3にリアル店舗での体験が影響していると言います。

モバイルオーダー、BOPISの需要増加

感染症に対してセンシティブになった消費者の一部は、飲食店内での食事を極力避けるようになるかもしれません。たとえ飲食店以外でも、商品を買うのに店内で行列することは感染症予防の観点からすると避けることが望ましいため、BOPIS(Buy Online Pick up In Store)の需要が高まるでしょう。

在庫管理の効率化、省人・省力化

パニック消費下でリアル店舗は、商品在庫自体はありながら棚出しするリソースの不足によって商品が陳列できない事態や、それによって消費者からのひっきりなしの問合せ対応に追われるなど、効率的な店舗運営における課題が噴出した形となりました。ここに教訓を得て、リアル店舗との在庫一元化や、AI/IoTを活用した省人・省力化がより一層加速していくでしょう。

AI/IoTを駆使した物流の無人化・効率化加速

感染防止の観点と顧客の満足度向上を併せて考えると、物流システムの進化も、今後外せないポイントとなってくるでしょう。ファーストリテイリングなどは、AI/IoTを駆使した物流倉庫の無人化、効率化に大きな投資を行なっていますが、アフターコロナの世界では、消費者サイドからもそれらを強く求められるようになると言えます。

米国・中国に見る「ニューノーマル」の兆候

ビフォーコロナの世界では、これらのコンセプトや必要性自体は理解できても、それを実行する体力がない企業や、昔ながらの商慣習の壁が厚いという企業も多く、結局「未来の小売の姿」として捉えられたまま、アナログとデジタルの間にはいまだに大きな溝が存在していました。

しかし、これはもはや「未来」ではありません。アフターコロナには、その溝を無理にでも超えていかないと生き残れない世界が待っているのです。その兆候は、日本に限らず世界の動きから見ても明らかです。

大手IT企業が小規模小売店を対象にノウハウを提供(米国)

米国では現在、フェイスブックやイーベイなど大手IT企業が、瀕死に喘ぐ小規模小売店に対する救済策を次々と打ち出しています。

それらの施策は直接的な現金支給に加えて、オンライン販売のためのプラットフォームやテクノロジーの無償提供や、ECの運営など経験のない小売店に対してノウハウを提供するなどの施策も含まれています。

これは新型コロナウイルスとは直接的な関係はありませんが、時を同じくして、アマゾンは、以前から小売業界で注目を浴びていたレジなし決済を可能にする「Amazon Go」のシステム「Just Walk Away」 の外販を正式に発表しています。詳細はまだ明らかになっていませんが、導入まではたったの数週間と言われており、価格次第にはなりますが、実店舗におけるリソース不足が予想されるアフターコロナでは、ニーズが大きいと考えられます。

これらの施策が今集中して投下されることによって、まさにウイルスが伝播するように、世界のEC化率上昇や、店舗のDXをさらに加速させるきっかけになる可能性は大いにあるでしょう。

個人の生体データ・行動データ利活用が加速(中国)

新型コロナウイルスの危機に際し、一人一人が感染者との接触を避けることがパンデミックに対する最大の抑止力となることから、中国では感染者や接触者をデータで追跡するシステムが、政府と民間企業の協働によって急速に構築されつつあります。

アリババが展開している決済サービス「アリペイ」は、アリペイユーザーの健康状態を赤、黄色、緑のQRコードで表示する「アリペイ健康コード」を約100都市で展開しています。この「健康コード」は交通機関の利用時や建物への入館時に表示を求められ、緑意外のユーザーは何かしらの隔離措置を求められる、というものです。

仕組みについての詳細は不明ですが、何色のコードが表示されるかは、ユーザーの自己申告に加えて、交通期間の利用状況や位置情報なども掛け合わせた上で決定するものと見られています。

ユーザーにとって、これは「デジタルによる監視」と捉えられかねない施策と言えますが、多くのユーザーはそれを受容しています。これは、アリペイに個人情報を提供することで、より多くの快適な購買体験が得られることをユーザーが知っている、ということの現れでしょう。

アリペイ健康コードと同様の取り組みは、新型コロナウイルスの危機に際して世界に広がっています。デジタル監視によって個人の行動を追跡するテクノロジーが進化すれば、それはアフターコロナにおいて、そのままリテールテックへと活用できることを意味します。

OMO、アフターデジタルの概念が加速するニューノーマル

消費者個人のオフラインにおける行動データを、(消費者の同意のもと)活かすことで、小売企業は、リアル店舗とECの両方のチャネルにおいて、より最適な情報を、あるいはパーソナライズされた購買体験を提供することが可能になります。

「オンラインを活かすか、オフラインを活かすか?」ではなく、「両方のチャネルを最適に活用する」、それを当たり前にビジネスに実装していなくてはならない世界、それこそが、流通小売業界を待ち受けるアフターコロナの世界なのです。

これらはビフォーコロナの時から、その必要性は常に説かれていました。OMO(=Online Merges with Offline、オンラインとオフラインの融合)、オンラインとオフラインを二項対立で捉えるのではなく、この世界は、リアルな場である店舗も含めて全てがデジタルに繋がったタッチポイントとなる。だからこそ、全てのタッチポイントから得られる顧客の行動データをうまく活かして価値の高い顧客体験を提供できる小売企業こそが成功する——昨年「アフターデジタル」という概念としても提唱されていたものです。

そしてその概念を再現した小売の姿は、アリババの創業者、ジャック・マーが提唱するニューリテールそのものです。

「アフターデジタルにおけるニューリテール」、それは奇しくも「アフターコロナにおけるニューノーマル」な小売業の姿であり、この世界的な災禍が、荒療治的に全ての企業をふるいにかけ、流通小売業を進化させようとしているのかも知れません。

いずれにせよ、新型コロナウイルスが過ぎ去るのをただ待つだけでは出遅れてしまいます。全てが元通りになることはないということを念頭において、ニューノーマルに備えたビジネスの変革を、今すぐに、できることから始める時なのではないでしょうか。



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