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メディア化する店舗——実店舗と顧客体験の新たな関係

近年、小売業界では、書籍や業界向けメディアなどで「店舗のメディア化」というキーワードを盛んに見かけるようになりました。

この言葉の本質は、ECの成長や、RaaS(Retail as a Service)企業あるいはD2C企業の台頭といった、今の小売業界で起きている潮流と密接な関係があります。同時に、実店舗をすでに持っている企業にとっても、これから新しく実店舗を展開する企業にとっても、今後の店舗の在り方を考えるに当たって、必ず意識すべき点であると言えるでしょう。

本稿では、改めて「店舗のメディア化」について、その本質を考察していきます。

目次:

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売るための店舗から、情報伝達するための店舗へ

「店舗のメディア化」を正しく捉えるためには、まず、その前提となる「メディア」と言う言葉を正しく理解する必要があります。

と言うのも、「メディア」と聞くと、どうしてもテレビや新聞などのマスメディアや、様々な記事を配信するウェブメディアというイメージが先行してしまう人が一定数存在するからです。

そのような人は、「店舗のメディア化」と聞くと、その言葉のイメージから、「店内で何かしらコンテンツを発信すること」と捉えてしまいがちです。それ自体、手段の一つとしては決して間違ってはいないのですが、そこに本質はありません。

「メディア」とは、「情報伝達を媒介する手段」「情報伝達の媒介となるもの」と定義されています。

この言葉をそのまま当てはめて、「店舗が情報伝達を媒介する手段になる」と考えてみましょう。実は、それこそが、これからの店舗の存在意義を表しているのです。あるいは、“店舗の目的”は「情報を伝達する媒介になること」と言い直してもいいかもしれません。

“売ること”が全てだった店舗の目的が、「情報伝達を媒介する手段になること」に置き換わる。これが店舗のメディア化の本質です。

そして、店舗で伝達すべき「情報」とは何か?

情報を単なるインフォメーション的なものとして捉えてしまうと、それはECサイトでもできることであり、「メディア化」のために実店舗に投資をする意味を感じられない、と感じる人もいるかもしれません。

ここから、実店舗だからこそ伝えられる「情報」について考察してみたいと思います。それを考察することで、店舗のメディア化という現象を正しく理解することができるようになるのです。

伝達すべきは、フィジカルに表現する「商品/ブランドの世界観」

上の項目でも述べたように、これまでの店舗は、商品を販売することが目的の全てでした。しかし、近年ではECの進化と浸透に伴って、商品を購入するチャネルを選択する自由は顧客に委ねられるようになりました。

それでも、人々が商品を買うときに実物を触って確かめたいと思う気持ちは今後も変わらないでしょう。高価な商品はもちろん、それは、日常的に使用する消費財(例えばシャンプーのような)でも同様です。なぜなら、今を生きる人々は、自分のライフスタイルに取り込む「意味」のある商品を常に探す傾向があるからです。

どのようなときに人々は「意味」を感じるのでしょうか。

それは、体験がその人の期待値を超えたときです。圧倒的に素敵、可愛い、綺麗、かっこいい、便利、気持ちいい、美味しい———商品やブランド、あるいは店舗全体で醸し出す世界観が巻き起こす何かしらの感情が、自分が想定していた期待値を超えたとき、人々はそれを自分のライフスタイルに取り込みたい、という衝動が働きます。そして、それはテキストだけでは絶対に呼びおこせない感情なのです。

どんなに素敵な服をECサイトで見ても、例えそれをEC上でバーチャルで試着できても、実際にそれを着て鏡の前に立った時の感動は絶対に超えられません。店舗に来て、フィジカルに体験して、初めて期待値を超える感動が生まれる—ここに、実店舗の存在意義があります。

たとえその場で購入しなくても、企業側でオムニチャネルが構築されていれば、顧客はいつでも商品を購入することができます。加えて、期待値を超えた感動は、SNS等で“リアルな口コミ”を生んでくれる、という副産物にも期待できます。

店舗が生み出すべき体験は、何も商品単体に限ったことではありません。例えば、店舗を構成する全ての要素を使って、ブランドが表現したい世界観を体現する、という方法もあります。

最近オープンしたブランド直営のフラッグシップショップや、新しく起ち上がったD2Cブランドの実店舗などは、特にブランドの持つ世界観を意識した店舗作りがされていることが多いです。これは、まさに「店舗のメディア化」の本質を理解し、それを意識していることの証と言えるでしょう。

テクノロジーの掛け合わせで、店舗のメディア化は進化する

もちろん、商品やブランドの世界観を体現する実店舗は、昔から存在していました。しかし、それはあくまで店舗だけで完結するものでした。つまり、最終的にはその場で商品を販売しなくては始まらないため、店舗の設計もそれが前提になっていた、つまり体験の設計にもかなりの制限があったと言えます。

例えばレジカウンターや在庫をストックするスペースがどうしても必要だったり、バックヤードにスタッフを回す必要があったり、といった具合です。

今はテクノロジーが進化し、店舗内も含めてオンラインでチャネル同士がシームレスに繋がれるため、体験の設計はもっと自由です。その場で販売することがプライオリティではなくなれば、店内のスペースやスタッフの生かし方ももっと自由になるでしょう。

加えて、実店舗のメディア化をさらに進化させる要素として、データの存在があります。あらゆるタッチポイントがオンラインで繋がる、ということは、顧客の様々な購買行動をデータとして定量化し、ロジカルに分析することが可能になります。

分析の結果を、さらなる打ち手に、あるいは商品そのものにフィードバックすることで、店舗はさらに魅力的な存在になれるのです。これが、かつての店舗と決定的に違う部分です。

データに基づける、ということは、すなわち、店内でもデジタルマーケティングが有効になる、ということです。しかし、店内での施策は単なるバナーやレコメンデーションに止まることなく、例えば、スタッフによるリアルなコミュニケーションで顧客の期待値を超えることも可能になります。

AIやセンサー技術など、今後さらに進化していくであろうテクノロジーは、実店舗に来店する「意味」を生み出す手助けをしてくれるのです。

顧客の行動データを活用し、メディア化を実現させているRaaS

最近は、店舗のメディア化に特化することをサービスとして提供するRaaSが国内外で複数登場しています。

例えば直近では、日本に初進出したサンフランシスコ発の「b8ta」や、「蔦屋家電+」、そして渋谷パルコ内に出店している「booster studio by CAMPFIRE」などがそれに当たります。

これらの店舗の共通点は、商品を売ることを目的にしていない、ということです。それぞれのビジネスは、商品を置きたい企業からの出展料で成り立っており、店舗の目的は、商品そのものを顧客に体験してもらうこと、そして店内における様々な顧客行動データを出店企業にフィードバックすることになっています。

出店された商品もただ陳列するのではなく、その背景にあるストーリーまでを含めた形で情報を提供できるようにしており、販売スタッフも、来店した顧客と商品について十分なコミュニケーションが取れるよう、それらのストーリーをしっかりとインプットしています。

結果として、店舗には新たに市場に登場したてのユニークな商品が集まりやすく、顧客としては定期的に「そこに行けば面白いものに出会える」という価値、来店する意味に繋がっているのです。

利便性、情緒的価値を全館で突き詰めた「渋谷パルコ」

上述したbooster studio by CAMPFIREが出店している新生渋谷パルコも、店舗のメディア化を全館で突き詰めた施設であると言えます。

渋谷パルコには多くの店舗が集まっていますが、それらの店舗をただ詰め込むのではなく、ファッションやアート、エンタテインメント、フードなどの軸で、それぞれ綿密なコンセプト設計に基づいて、来館者が感動できる情緒的な価値を生み出す工夫が至る所に凝らしてあります。

最新テクノロジーを駆使した利便性も極めて高く、顧客は何度でも足を運びたくなるような、カルチャーの発信源となっています。

オンラインと同じ体験をフィジカルなものに昇華した「@cosme TOKYO」

2020年1月、原宿駅前にオープンした@cosme TOKYOの実店舗は、いかにも化粧品の口コミサイト発祥の店舗らしい体験を提供しています。

例えば、ベストコスメが一目でわかるシンボリックなタワーが店内中央にどん、と構えていたり、毎週商品が入れ替わるウィークリーランキングコーナーだったり、たくさんのブランドを横断的にテストできる「テスターバー」など、顧客はオンラインで感じていた@cosmeの楽しさ、利便性を、フィジカルな体験として味わえるのです。

さらに、レジカウンターの背面の巨大なサイネージには、単にプロモーション映像が流れるだけではなく、直前に購入された商品が表示されることで、リアルタイムでトレンドを実感できるなど、レジ待ち時間もエンターテインメントに変える工夫がされています。

「メディア化」の実現にはロジカルな設計が必要

事例を取ってみても、「店舗のメディア化」を実現することには巨額の投資が必要に見えますし、チャネル問わずと言えども、本当にそれで商品の売上に繋がるのか、疑問に感じる人もいるかもしれません。

しかし、「小売再生—リアル店舗はメディアになる」の著者、ダグ・スティーブンスによれば、米国において「メディア化」を実現したRaaS、「STOY」のビジネスモデルを、ニューヨークの百貨店、Macy’sに適用した場合、従来の12倍に売上が向上する、という試算されたと言います。

だからといって、「メディア化」すること自体が目的になるのは本末転倒です。最も重要なのは、その店舗で何を表現したいか、だからです。

企業ごと、商品やブランドごとに表現したいこと、そこに顧客が感じる「意味」は違いますから、定まった正解はありません。どんな顧客に来店してもらい、そこでどんな感情を抱いてもらいたいのか。そしてそれを実現するためにはどんな手法、手段がベストな選択か。

それらについて、ペルソナの設定やカスタマージャーニーマップなどを用いて、ロジカルに設計していく必要があるのです。

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