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買物弱者が一大市場に? 移動販売の確立めざすストア各社

スーパーやコンビニで移動販売の取り組みが全国的に広がっています。移動販売というと、これまでは買物弱者を救済する企業の社会的責任という文脈で語られることが多かったわけですが、高齢化が一段と進むと、店舗まで来れない顧客にアプローチする手段として、店にとっても重要な機能になりそうです。
とはいえ、移動販売は利益を出しづらい事業です。この収益モデルをどのように確立するか、将来のマーケット環境を見据えた試みが続いています。以下のポイントでまとめます。

  1. 店には行けない、けれど買物は楽しみたい高齢者
  2. 移動販売を収益化するノウハウが必要
  3. 移動販売の専業「とくし丸」と提携するスーパーが急増
  4. コンビニや生協も移動販売。買物弱者を巡って競争する時代に?

高齢化で膨らむ買物弱者のマーケット

食品など日常の買物に困難を感じている人、いわゆる買物弱者は、全国で700万人と推計されています。2014年に実施した経済産業省の調査で、「買物に困難を感じている」と答えた人の割合およそ17%に、60歳以上の人口をかけて算出した数値です。その前の調査は2008年で、買物弱者の数は600万人とされていました。14年の調査から3年が経ち、増加率はさらに加速していることでしょう。

参考:買物弱者問題に関する調査結果をとりまとめました(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/press/2015/04/20150415005/20150415005.html

店舗まで足を運べない人が日々の食料品を購入する手段として、ネットスーパーが活用されています。しかし、すべてのニーズに応えられるわけではありません。スマホもパソコンも使えないという高齢者は多いですし、ネットスーパーのサービス対象外というエリアも少なくありません。

ネットが使えるかどうかの問題とは別に、商品を実際に見て選びたいというニーズがあります。とりわけ高齢者は、店舗でのふれあいを求める意向が強いようです。高齢の単身世帯が増えるなか、人とふれあって買物を楽しみたいというニーズは今後も増すことでしょう。ネットスーパーが使えれば事足りるのではなく、来店できない人にも買物の楽しみを提供すること。移動販売はそれを実現する手段として需要が高まりそうです。

そして、これは過疎地域だけのニーズではありません。車の運転を諦め、自転車にも乗らない高齢者にとっては、たとえ数百メートルの距離でも買物に出るのは不便になるでしょう。重い物やかさばる物は運べなくなるかもしれません。都市部でも買物に不自由する高齢者は増加します。
2030年の単身高齢者は、2010年対比で1.5倍に増えるとみられています。徒歩圏内に生鮮食品を購入する場がない高齢者は2倍になるともいわれています。その時点で総人口に占める65歳以上の割合は31.6%と推計されており、買物弱者のマーケットは軽視できない規模になるのです。

参考:今後の高齢者人口の見通しについて(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/link1-1.pdf

店着までの物流に、移動販売を付け足す難しさ

スーパーマーケットのロジスティクスは、店頭に商品を陳列するまでの工程をいかに合理化するかという問題意識で進化してきました。顧客が店に足を運んで買物することが前提です。店まで来ることができない顧客のために移動販売で出向くとなると、商品の流通経路を延長しなければなりません。

これはネットスーパーにも共通することですが、想定していない物流工程を後付けしようとすれば、新たに発生してしまう作業負担やコストを合理化するのは簡単ではありません。店から顧客に届けるまでの物流工程、これを「ラストマイル」と言いますが、効率的な仕組み作りが課題です。

ネットスーパーのラストマイルは、購入された品物を運ぶので商品ロスは発生しません。ただ、個別注文を処理する情報システムや店頭からピッキングする作業が必要となりますし、それぞれの家に届けるための配送ルートは複雑で、しかも日々変わります。

移動販売の場合、配送ルートは固定されるものの、買ってもらえるか分からない商品を運ぶので、売れ残りが生じるリスクがあります。どのような商品をどれだけ運ぶか、利用者に必要なものを絞り込み、運んだその場で購入してもらうための営業努力が必要です。

御用聞きも含めて顧客の要望に応えるイオン

流通大手のイオンは、一部地域で移動販売に取り組んでいます。千葉市花見川区こてはし台のケースでは、日曜日を除く週6日、イオン幕張店から移動販売車を出し、公園など1日トータル5ヶ所で約30分ずつの販売を実施しています。
イオンの移動販売は、店舗従業員が行う直営スタイルです。2tトラックに積載できる商品は300品目ほどですが、利用客の要望を聞いて商品を持参する御用聞きサービスも提供しています。総合スーパーだけに、衣料品をリクエストされることもあるそうです。

移動販売で回る5ヶ所のうち、2ヶ所には午前と午後の2回訪れます。午前中にリクエストされた商品は午後に持参します。また、注文者の自宅に立ち寄って届ける場合もあります。利用客のニーズを聞き、店の品揃えを理解して迅速に対応するため、販売業務は直営で行います。
こうした工夫により、利用客の単価アップにつなげています。また、移動販売を実施するには、地域住民や行政、警察署などとの連携が重要です。利用しやすく安全な販売スポットを確保するにも、地域の協力は欠かせません。イオンは以前から各地の行政と締結する地域協定を広げてきました。その土台が移動販売に活きているといいます。

千葉市花見川区で稼働中のイオンの移動販売車

コラボで移動販売に取り組むスーパーが急増

スーパーマーケットには、移動販売のノウハウがありません。独自でノウハウを蓄積するにはコストも時間もかかります。そうまでして取り組んでも、移動販売にそれほど大きな収益は期待できません。とはいえ需要はありますし、地域の期待に応えたいと考えるスーパーは、移動販売のノウハウに長けた専門事業社と提携します。提携先としてスーパーとの取り組みを広げているのが、徳島県に本社を置く「とくし丸」です。

とくし丸は各地の食品スーパーと提携しサービス対象エリアを拡大

とくし丸の移動販売は、ノウハウ提供・商品供給・販売業務の役割分担で成り立っています。商品供給先として各地のスーパーと組み、移動販売の担当者として地域の個人事業主と契約します。
個人事業主の販売パートナーは、とくし丸の車両を所有します。販売パートナーの仕入れは拠点となるスーパーから行いますが、調達コストはかかりません。スーパーの販売代行業という位置づけです。
移動販売の利用客は、1商品につき10円を店頭価格に上乗せして購入します。この10円は販売パートナーとスーパーに5円ずつ還元します。売上の粗利もスーパーと販売パートナーが規定の比率で分け合います。

このように、移動販売に関するコストと利益は、店と個人事業主とで分かち合うかたちになっています。とくし丸本部はスーパーから契約金(トラック1台につき50万円)やロイヤリティ収入(月額3万円)を得ます。これらは固定制で、売上が伸びるほどスーパーや販売パートナーの収益が高まる仕組みになっています。
17年3月時点で、とくし丸は地域スーパー65社と提携しています。36都府県で205台の移動スーパーが稼働中です。2012年の創業から100台を突破するまでに4年かかりましたが、それから1年で205台に倍増しました。
17年7月には、都内を中心に137店を展開する食品スーパー「いなげや」や、埼玉を基盤に81店を運営する「コモディイイダ」との提携を発表しました。数千億円規模のチェーンとの提携が増え、取り組みは全国各地に広がってきました。18年度末には500台の稼働を目標としています。
とくし丸の移動販売は、トラック1台につき日販は7〜9万円が一般的で、客単価は2000円ほど、1日の客数は40〜50人としています。客単価は実店舗の平均より高いくらいですが、やはり客数には限界があります。

とくし丸の移動販売事業モデル

また、移動販売オーナーの収入シミュレーションも公開しています。開業資金は主に車両代の負担が大きく、330〜350万円ほどになります。平均日販が7万円として、週6日稼働した場合、販売オーナーの1ヶ月の収入は約34万円になるそうです。ここからガソリン代や車両償却費などの諸経費およそ10万円が引かれ、手取額は24万円ほどとしています。

移動販売が増えれば、買物弱者の奪い合いに

移動販売に取り組むのはスーパーだけではありません。スーパーよりもはるかに拠点数が多いコンビニエンスストアも、チェーン本部と加盟店オーナーの協業で移動販売を実施するケースが増えています。
セブン-イレブンは、2011年から「あんしんお届け便」の名称で移動販売に取り組んできました。専用車両を本部が貸与し、加盟店オーナーが移動販売を行います。現在は40台あまりが稼働中で、18年度には100台を目指すとしています。ローソンは2012年から取り組みに着手し、セブンより1年早く、今期中には100台体制になる予定です。ファミリーマートも17年3月時点で18台が稼働しています。
また、生協も移動販売を拡大しており、16年時点で25道府県の30生協が、合計150台の移動販売車を走らせています。

まとめ

ここまでの流れをまとめると以下のようになります。

  • 高齢化に伴って買物弱者が増加します。人とふれあうなかで買物を楽しみたいというニーズは確実にあるため、移動販売の必要性も高まります。
  • ただ、スーパーの多くは移動販売のノウハウを持ち合わせていません。そこで、移動販売の仕組み・ノウハウを持つ専業社と提携するチェーンが急増しています。
  • 移動販売のプレーヤーは、スーパー以外にもコンビニ、生協などがあり、それぞれ取り組みを拡大する意向です。

これまでも食品市場を巡る競争は、業種・業態やネットとリアルの違いも超えてクロスボーダー化していると言われてきました。買物弱者の救済を主な目的として始まった移動販売ですが、人口減少・高齢化社会の中では、買物弱者の市場すら奪い合うことになるかもしれません。

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この記事を書いた人
宮川耕平

流通業界紙で12年にわたり記者として勤務。スーパーやコンビニなどの小売業のほか、食品、酒類、流通に関連するIT分野を幅広く取材。キャッシュレスやペーパーレス、働き方改革をテーマに活動中。

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