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「顧客体験」という視点で切り取った「未来店舗」のロールモデルたち

「Amazon Go」や、「フーマーフレッシュ」など、テクノロジーで世界をリードする企業が、近い未来にスタンダードとなりそうな新しい店舗の形を次々と具現化しています。実際、5Gが実用化され、IoTやAIがさらなる加速度的な進化を遂げるであろうこれからの時代において、顧客を魅了する店舗を構築するにはテクノロジー抜きでは考えられません。

顧客を惹きつけるためにテクノロジーをどのように活用し、どのような姿の店舗になるべきかは業種や業態、企業の強みや哲学によって変わってきますが、あらゆる小売業に共通して言えるのは、顧客にとっていかに魅力的な来店体験を提供できるかということ。そして、そこで得られた顧客の行動データをいかにして商品やサービスにフィードバックし、それによってさらに顧客が集まるようにする「正のループ」を生み出し続けられるか、ということに尽きるでしょう。

新しい店舗における最新テクノロジーの活用というと、ともすると省人化・省力化という側面に目が行きがちです。しかし、最も注力すべきなのは、どのような顧客体験を生み出し提供できるかということに他なりません。

目次:

顧客が求める体験は、業種・業態によって変わる

例えば、コンビニエンスストアや駅のキオスクを想像してみてください。そこで購買される商品は比較的単価が小さいものです。そして、多くの生活者は、そこを訪れた時点で自分が何を買いたいか、はっきりとわかっている場合がほとんどでしょう。こういった場で顧客が求める体験は、いかにスムーズに、ストレスなく、目的のものを入手する、ということが中心になるはずです。したがって、無人店舗/レジレス決済やモバイルオーダー専門といった店舗の形がマッチするでしょう。

一方で、アパレルや家具、各種専門ギアなど、ブランドが立っている店舗では、いかにその世界観を全身で感じることができるかどうか、ということが顧客にとって大切な体験価値となります。この場合は無人であることが逆効果な場合も大いにあり得るわけです。

この辺り、自社の店舗においては顧客にとって何が一番求められている体験となるのかを突き詰めて考える必要があります。そしてそれは、手段としてのテクノロジーを考えるよりずっと上流で考え抜かれておくべきものでしょう。

以上を踏まえ、ここから「未来の店舗」を感じさせる国内外の店舗事例を、顧客体験という側面に注目してピックアップしていきたいと思います。

2年前からOMO的未来店舗を具現化していた「FARFETCH」

英国発のラグジュアリーブランドのセレクトファッションECを展開する「FARFETCH(ファーフェッチ)」は、2007年創業と比較的新しいブランドですが、2018年にニューヨーク証券取引所に上場し、時価総額9000億円近い値が付いています。

もともとファッションECとしても尖ったサービスで注目されていましたが、FARFETCHがこれほどまでに急成長している理由は、彼らが展開する実店舗用のテクノロジーにあります。

2017年4月に、FARFETCHは「The Store of the Future」という、ズバリ「未来店舗」という名前の小売オペレーティングシステムを、ロンドン市内の実験店として公開しています。

顧客は、ビーコンやApple Pay経由で来店を認識されたり、色違いの商品や過去に購入したアイテムを呼び出して確認できるコネクテッド・ミラーや、顧客がどの商品を手に取ったかがRFIDによって記録されるコネクテッド・レールが設置されていたり、決済はスマホ上で自動課金されたりと、まさに絵に描いたような未来店舗です。もちろん、これらのデバイスによって店内での顧客の行動は全て記録され、そのデータはPDCAを回すための貴重な材料となるわけです。

顧客の体験としても快適でありつつ、裏では顧客データでさらなるサービスの改善を図る。まさにOMOを綺麗に具現化したような実店舗の形と言えますが、これはOMOがバズワードになる前からFARFETCHが「AR」(拡張現実ではなく、「拡張小売」Augmented Retail)として提唱している実店舗の形であり、彼らはこのシステムを新たなビジネスモデルとして他社に販売することでさらに勢力を伸ばしているのです。

出典:https://aboutfarfetch.com/about/store-of-the-future/

「買わない店舗」が増えている

特にアパレル企業を中心に、世界では今、「その場で購入させることを目的としない店舗」が増えてきています(もちろん実験的な位置付けのものも多いですが)。購買チャネルはオンラインに預ける、という意味ではGUなどが展開している「ショールーミング特化型店舗」がまず頭に浮かびますが、こちらに挙げる事例では、商品に触れてもらう以上の様々な深い体験を提供することでブランドを際立たせ、顧客のファン化を狙っている側面が大きいと思います。

サービス特化型店舗「Nordstrom Local」

アメリカの大手百貨店である「Nordstrom(ノードストローム)」 は、商品を陳列せず、各種の「サービス」に特化した店舗です。

例えば、オンラインで購入した顧客が商品をピックアップする際に試着する、万が一気に入らなければその場で返品や交換できる、スタイリングコンサルタントが洋服の着こなしについて相談に乗ってくれる、ハンドバックや靴のリペアといったアフターサービスなどなど。

なんでもNordstrom 以外の店舗で購入した商品まで返品のためにドロップできる、ということで、これはある意味、ホテルのような居心地の良さを小売業のサービスで実現していると言っても過言ではないでしょう。その快適さが顧客を惹きつけることは想像に難くありません。そしてそれは、確実に成果にも跳ね返ってきているようです。

Nordstrom によれば、「Local」を訪れた顧客は平均よりも2.5倍以上の金額をNordstrom で使うとのことで、同社は2017年からカリフォルニアの主要都市で順次「Local」を開店しており、今年に入ってニューヨークのマンハッタンに新たな店舗をオープンしたばかりです。

「意味があるAI体験」が心地いい「JINS BRAIN Lab.」

メガネブランドのJINSは、2019年1月にOMOの実験店舗として位置付けた「JINS BRAIN Labs. エキュート上野店」を展開しています。こちらはショールーミング特化型店舗であり、顧客はメガネのフレーム選びと度数測定のみを店舗で行い、購入は同社のアプリ「JINS APP」を用いたキャッシュレス決済で実施します。

この店舗の1番の特徴は、AIによる「メガネの似合い度判定サービス」を搭載したミラーでの試着でしょう。

店内に並んだメガネを試着してミラーの前に立つと、自動的にそのメガネが似合っているかどうかを「男性目線」「女性目線」それぞれから(そして同時に)判定し、定量的なスコアとして提示してくれます。

70点以上あれば「似合っている」と言えるらしいのですが、顧客体験として面白いのは、「男性目線」の採点と「女性目線」の採点が一致しないところ(たまに同じ評価になるものもありますが)。メガネを選ぶ際に「モテ」を意識するのか、それとも同性からの信頼感を重視するのか、直接スタッフに聞くことはあまりないけれども実は自分の中では重要視している部分が可視化できますし、自分の感覚とのズレ(自分では似合うと思ったものが低評価など)も認識できます。ここではAIを活用して、メガネ選びが圧倒的に新しい、そして意味がある体験として提供されているのです。

この「意味がある」というのは、店舗が存続するにあたり非常に重要なポイントです。よくありがちなのは、目新しいテクノロジーを導入した当初は、その目新しさそのものが体験価値を持っているものの、それが時間と共に薄れていき、価値を失ってしまうという現象です。メガネ選びを客観的にスコアリングする、という体験価値は普遍的に意味があるものですし、もっと判定精度が上がって、スコアリングに基づいた顧客のサクセスストーリーなどが生まれれば、さらに面白くなるのではないでしょうか。

小さいけれど重要な課題を解決している「TOUCH-AND-GO COFFEE」

「ラッキンコーヒー」や「Starbucks Now」など、コーヒーブームが巻き起こっている中国ではお馴染みとなっているのがモバイルオーダースタイルの店舗。ここ日本でも2019年6月に「TOUCH-AND-GO COFFEE」というモバイルオーダーのコーヒーショップが登場しました。

これはサントリーのコーヒーブランド「BOSS」がプロデュースする店舗なのですが、コンビニで買う缶コーヒーとは違い、味を自分好みにカスタマイズできるようになっています。ラベルネームも自由に決められるため、一部のユーザーは自分の好きなアイドルの名前などをラベルネームにする楽しみ方などで盛り上がったりもしています。

しかし、この店舗の体験価値として細かいながらも重要だと感じるのは、そのオーダーの仕方です。TOUCH-AND-GO COFFEEはLINE上でカスタマイズから決済までを完了できるUI/UXとなっています。
なぜこれが重要なのかと言うと、今現在、OMOを実現するための起点として欠かせないデバイスはスマホであり、大抵の場合、それは各企業オリジナルのアプリをインストールすることが要求されています。この先、生体認証などが普及しない限り、この流れは変わらないのではないかと感じます。すると何が起こるかと言うと、小売業が進化すればするほど、スマホの中がアプリで溢れかえることになります。それらを逐一整理しなくてはならないのは、明らかにネガティブな体験になるはずです。

これは小売業界が抱えている潜在的な課題であり、TOUCH-AND-GO COFFEEが採択したLINEで全てを完結できると言うUI/UXは、それに対する一つの解決策であると感じます。WeChatなどが展開する「ミニプログラム」も、同様の課題に対する答えの一つだと思いますが、ここ日本においては、すでに圧倒的なユーザー数を持つLINEを用いるのが、顧客にとっても最もスムーズでしょう。

チャットボット形式でのオーダーは、サクサクと進行し、自分で商品をスクロールして探したりタップする必要もありません。例えば揺れる電車の中などでもストレスなく、片手でオーダーを完了できます。この辺りの操作性を重視して徹底的に磨かれたUI/UXだと思いますし、体験としては非常に細かい部分ではありますが、それが毎日利用しようというモチベーションに繋がるのだと感じさせてくれます。

出典:https://touch-and-go-coffee.jp/

必ずしも「テクノロジー頼み」ではない、ジェネレーションZ向けの店舗体験

世界的に見て、これからの時代で購買の中心を担っていくのは、1990年代後半から2000年代生まれの「ジェネレーションZ」と呼ばれる世代です(アメリカでは総人口の約25%)。日本におけるジェネレーションZ世代は世界と比較するとやや少なめではありますが、それでも総人口の15%程度であり、この層に対する戦略を無視することはできません。

デジタルネイティブなジェネレーションZですが、意外にも買い物においては実店舗を重視する、とも言われています。そこには様々な理由が絡み合っているのですが、物心ついた頃からSNS等で自分の琴線に触れたものだけを集めて過ごすことが当たり前となっている彼らが、リアルな場だからこそ味わえる稀少な体験や、自分が好む世界観を求めていることは想像に難くありません。

したがって、ジェネレーションZを店舗に呼び込むには、単に商品を購買をしやすくするだけではなく、来店すること自体が大きな意味を持つような体験を設計する必要があると言えます。

その場合、「体験を演出する」という部分では必ずしもテクノロジーを駆使する必要はない、という事例をピックアップします。

徹底的にブランドの世界観を浴びせる「GENTLE MONSTER」

韓国発のアイウェア・ブランド、「GENTLE MONSTER」がソウルをはじめ世界の各都市で展開するリアル店舗は、まるで美術館のような空間演出で話題となっています。

もちろん、昔から店内装飾にこだわるショップはいくらでもあります。しかし、それはあくまでも「商品の陳列ありき」の装飾であり、プライオリティは商品を手に取らせ、最終的にはその場で購買してもらうことにあるものでした。

しかし、GENTLE MONSTERのそれは完全に主従が逆転している、つまり、ブランドの世界観を顧客に浴びせることこそが主目的となっており、中には商品が全く陳列されていないフロアまで存在しているほど。

装飾自体には全面的に最新のテクノロジーが駆使されている訳ではありませんが、念頭にあるのは、最終的な購買自体はオンラインチャネルに預ければいい、というOMO思考です。

このようなアイデアは誰もが思いつきそうなものですが、ここまで振り切って実行できるところはなかなかないでしょう。それは、GENTLE MONSTERの社内体制のバランスにも如実に現れていて、約300人の社員のうち商品に直接関わるアイウェアのデザイナー自体は数人しか存在せず、ブランディングと店舗デザインのチームには約100名が所属していると言います。

このチームの組み方も含めて、これもまた、従来の常識に囚われない店舗の未来の一つの姿と言えるのではないでしょうか。

商品のパーソナライゼーションこそが体験価値となる「White atelier by CONVERSE」

スニーカーの「永遠の定番」とも言えるコンバース・オールスターを顧客自身にデザインしてもらう、という体験を商品そのものとセットにして提供しているのが日本で展開されている店舗、「White atelier by CONVERSE」です。

そこでは、ベースとなる真っ白なオールスターを装飾する様々なデザインパターンを顧客自らが選ぶことによって、手軽に「パーソナライズ」された商品を手に入れることができます。

スニーカーをカスタマイズできるサービス自体は、NIKEなど、他のブランドでも体験することができますが、White atelier by CONVERSEの良いところは、デザインしたスニーカーをその場でプリントしてくれるため、小一時間もあれば商品をその日のうちに持ち帰ることができるという点です。

これは、実店舗で買い物をするメリットを殺すことなく、まるでワークショップのようなワクワクする体験を付加し、さらには「世界に一足だけのスニーカー」という稀少性、これら全てをセットにして提供できているという見方をすることができます。

ジェネレーションZ世代の顧客なら、間違いなく完成したスニーカーをSNSでシェアしたくなるだろうという部分まで含めて、シンプルな手法ながら、他業種にとってもヒントが詰まった新しい店舗の形、と言えるでしょう。

出典:http://whiteatelier-by-converse.jp/

スタッフを「OMO化」することで新たな店舗体験を生む「STAFF START」

店舗体験を生むのは必ずしも「店舗の中」だけではありません。逆の発想で、リアル店舗の接客をオンライン上で再現することもまた、新しい形の「店舗の顧客体験」と言えます。それを実現するサービスが、バニッシュ・スタンダード社が提供している「STAFF START」で、実際にアパレル大手のオンワードなどがこのサービスを導入しています。

これまでリアル店舗とECという二つのチャネルは組織的にも完全に分断されていたため、最も商品知識を持ち、売るポイントも押さえているはずのショップスタッフは、ECなどデジタル上での商品コメントに直接手を加えることが難しい状況だったと思います。

しかし、STAFF STARTなら、販売スタッフがSNS上にアップする参考コーディネート画像などに商品を紐付けることで手軽にデジタル接客を実現できるだけでなく、店頭で顧客が気になった商品の情報を、接客しているその場でQRコードにして顧客のスマホに送り込むこむことで、顧客が店舗を出た後でも販売機会として接点を残しておくことが可能です。

このようなツールでスタッフの接客そのものをOMO化することは、マス広告よりもSNSの方が信頼度が高い今の時代にマッチしますし、自らコミュニティを形成したりインフルエンサーとなれるスタッフであれば絶大な効果をもたらすことができるはずです。

このようなデジタル接客が生み出す店舗体験は、これから新しいスタンダードとなる可能性を大いに秘めているのです。

出典:https://www.staff-start.com/

店舗にテクノロジーを導入する前に必要なこと

ここまで様々な店舗の事例を挙げてきましたが、最も大切なのは冒頭でも述べたように、自社の店舗でワークする顧客体験とは一体何であるのか、を、徹底的に「顧客始点」と「顧客視点」で突き詰めることです。
それが煮詰まっていないのに、巷に溢れるバズワード(ある意味OMOもそうですが)に踊らされて無理やりテクノロジーを導入しようとするのは失敗の元ですし、どの成功事例も、それが成功するに至った背景や文脈、カルチャーは他の企業にそのまま当てはまるものではない、ということを念頭におくべきでしょう。

確実に言えるのは、これからの時代で顧客に選ばれる店舗は、店舗のみで成立することは絶対にないということとです。したがって、店舗でどんな顧客体験を提供するにせよ、あらゆるチャネルで顧客IDは統合しておき、リアルとオンラインを自由に行き来する顧客の動きを見ることができる環境だけはなるべく早く整えておく必要があるのです。

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