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これからの時代を生き抜く企業の必修科目、「PoC」の本当の意味と意義

シニアコンサルタントの岩井です。
昔から「概念実証」「実証実験」という言葉は存在していましたが、最近になって、それに代わるものとして「PoC」という言葉が一般名詞化した印象があります。

PoCとは「Proof of Concept」の略であり、その成り立ちから見ても、意味合いとしては概念実証とほぼ同義の言葉です。

言葉は聞いたことがあるけれど、その意味や意義に対する理解が足りないという方はもちろん、何かしらのビジネスアイデアを形にしたいけれども、どのようなステップを踏めばよいかわからないという方のために、本稿ではPoCという言葉が普及した背景などと共に、

  • PoCが必要なプロジェクトの定義
  • 勘違いされやすいPoC本来の目的
  • PoCで陥りがちな失敗
  • PoCを進める上での組織の在り方

などについて、弊社での実例を交えながら触れていきたいと思います。

これからの時代を生き抜く企業としてPoCを正しく捉え、うまく取り入れることによって事業をドライブさせる一助となれば幸いです。

目次:

PoCの存在意義は「小規模投資による細かいPDCA」

最近になって「PoC」が取り沙汰されるようになったのには、現在のビジネスにおいて事業化を行う際のステップが昔に比べて細分化している、という背景があります。

何かのビジネスアイデアを持っている場合、それに対して大規模な投資を一気に行うのではなく、小規模な投資で実行性や有用性を検証しながら、PDCAを細かく回して、最終的にビジネスの成立を目指していこうという考え方が世の中に浸透してきたのです。

小規模な起業スタイルを指す「リーンスタートアップ」という言葉がありますが、それも根っこにある考え方はPoCと同様です。

冒頭でも申し上げましたが、「PoC」と「概念実証」という言葉は、今ではほぼイコールです。「実証実験」という言葉もよく見かけますが、こちらも同様ですね。したがって、「PoC(実証実験)」とか、「実証実験(PoC)」という表現もよく見かけます。

センシングデバイスの低価格化によってPoCの普及が加速

その中で「PoC」という呼び方がこれだけ流行した一つの要因は、IoTの存在でしょう。呼び方だけの話ではありません。IoTが進化したからこそ、PoCの必要性が高まってきているという因果関係があるのです。

かつては何か新しいことを始めるとなると、PoCに必要な機器をカスタムメイドで構築しなければなりませんでした。すると、どこかのメーカーと組んで希望通りの機器を生み出すために一式数千万円から数億円というコストがかかります。それは、有用性を確認するための実験のコストとしては高過ぎたわけです。

ところが、今では個別識別などに必須のRFIDの単価や、センシングデバイスに利用されるチップ、その他にも様々な機能をもつブレインが入ったチップの価格が安くなってきています。機械的にもプロトタイプが過去よりも安価に、短期間でデリバリーができるようになったことで、PoCに着手しやすい環境が整ってきたのです。

この状況について、私が過去に関わったPoCを実例に挙げます。

2009年と2019年のPoCの違い

2019年の小売トレンドワードとして「スマートシェルフ」というものがあります。要は、商品棚自体に様々な情報管理機能を持たせて、さらには棚自体がお客様に対して様々な情報をレコメンドできるようにする、という概念のものです。私はそれと全く同様のコンセプトを持ったものを、2009年にPoCとして実施したことがあるのです。

当時はRFIDが非常に高価(1枚50円程度でした)だったのですが、その時陳列するものが野菜だったのです。100円の野菜を売るのに50円のRFIDタグを使うのは割が合いませんから、当時は重量センサーを使って実施しました。PoCとしては、重量センサーだと個数特定ができないなどの問題が出てきたわけですが、これが現在であれば、迷うことなくRFIDタグを使用してPoCを実施するという判断ができるわけです。

このように、市場に溢れている様々なセンシングデバイスの低価格化といったことが環境として整ってきたことは、PoCの着手のしやすさに拍車をかけている、そして同様に実行手法についても多彩さを増してきていると言えます。

PoCが不要なプロジェクト、必要なプロジェクトの定義

PoCは新しいビジネスアイデアを形にする際に、その実行性や有用性を確認するのに非常に有効な手段ですが、ビジネスモデルがすでにレガシーなもの、あるいは利用している技術が既知のものについてはPoCを行う必要は特にないと考えます。

企業が様々な新しい取り組みを行う時に、「全く新しいものではない技術」を利用することは多々あります。例えば、アパレルブランドが、アプリ上で購買履歴に基づくレコメンド機能を組み合わせ、その人にとって最適なトータルコーディネートを表示する、というような機能を考えていたとするならば、それには実証実験の必要はありません。なぜなら、使うのは「レコメンド」という既知の技術だからです。

しかし、ここにAIを用いて、購買履歴から推測される体型データや過去の購買データ、閲覧履歴、購買時間などから趣向値を類推し、おおよそのコーディネートパターンを洗い出し、そのデータに対して、コーディネートコンサルタントが最終的なおすすめコーディネートを決定する、というようなビジネスである場合、実証実験を行うべきポイントは多岐にわたり存在します。

レコメンドなどすでにある技術の場合、ある程度効果を予測できる上、実装された状況も、実際にそれによるビジネスが成立することもわかっています。したがって、実験をするまでもなく、それを採択するかしないかの判断だけでいいわけです。
しかし、その枠を外れ、在来型のモデルの延長線で考えられない場合、実際にPoCを検討する必要性があると考えます。

PoCが必要なプロジェクトの要素

では、本質的にPoCが必要なプロジェクトとはどんなものでしょうか。その定義をまとめると、以下の3点の要素を持つプロジェクト、ということになります。

  1. 技術的なブレイクスルーが非常に大きい
  2. リアルな場を絡めて今までと違うビジネスモデルを作っていきたい
  3. デジタルを活用して、リアルな場のビジネスを改革していきたい

この中で、【1】の技術的ブレイクスルーが大きいという要素がとても重要で、PoCが有効なプロジェクトは、大抵の場合【1】+【2】、もしくは【1】+【3】という要素で構成されていると言えます。

ただし、デジタルの世界だけで完結するプロジェクトの場合は、【1】だけということもあり得ます。

例えば、エスキュービズムでは、動画コンテンツの中に映っている商品に直接触れてフリックすれば、ECサイトを経由することなく購入することができる「TIG commerce」という製品をPoCという位置付けで展開したことがありますが、これは技術的なブレークスルーが大きく、かつデジタルのみで完結するプロジェクトと言えます。

TIG commerceについて、詳しくはこちら

PoCの成功条件には「ネガティブな要素」も含まれる

よく、「何を達成したらPoCは成功と言えるのか」という質問を受けることがあります。

本稿を読んでいる方の中にも、PoCの成功とは、実験の中で売上が向上して、お客様の評価も上がって、満を辞して本格導入に進めることである、とイメージされる方もいらっしゃると思います。

確かにそれもPoCの成功条件の一側面です。しかし、それだけではありません。PoCでは、ポジティブな要素に加えてネガティブな要素も併せて集まることがとても重要です。

例えば、エスキュービズムでは2017年に「VRコマース」というものをPoCで実施しています。背景としては2016年がVR元年と言われていて、オキュラスリフトが普通に流通し始めていた状況です。翌年にはMicrosoftのWindows MRが話題になり、「XR(クロスリアリティ)」なる言葉も生まれました。そういった状況の中で、弊社としてVRを使ったコマースがビジネス化してくるのではという読みに基づいてPoCを実施したわけですが、結論としては「まだまだ市場が成熟するのには時間がかかるので、今資源を投入して事業化を測ることは無駄である」であり、「それ」が分かったということは、PoCとしては間違いなく成功しているのです。

このように、PoCにおいて最も大切なのは、事業化に至るプロセスの中で、必要な判断ポイントを押さえて、その上で、そのPoCはどういった立ち位置で実施されるものなのか、という軸をぶらさないことです。

「PoCの立ち位置」と言ったのは、本格導入や事業化といった目的のために行う以外に、実はもう一つPoCの目的があるからです。

「宣伝広報的PoC」の存在と、陥りがちな失敗

例えば、「次世代の店舗にはどのような形があり得るか」というPoCを繰り返している企業には、間違いなく先進的なイメージが付与されます。さらに、それが上手くメディアに取り上げられれば、新規ユーザー獲得に繋がる宣伝効果にも期待できるわけです。

実施するのが、本格導入/事業化を本気で見据えたPoCなのか、それとも「宣伝広報的PoC」なのか、この軸は徹頭徹尾ぶらさずに貫かないといけません。

よく陥りがちなのは、話題性のために実施している「宣伝広報的PoC」において、社外で良い評価を獲得してしまったが故に、元々の目的をぶらして事業化を試みた結果、失敗してしまう、というケースです。

PoCの失敗例ケーススタディ

完全なフィクションですが、イメージとしては例えばこんな話です。

“あるスーパーに、本日のメニューの相談に乗ってくれるコンシェルジュがいたとします。それは、話題性獲得のために、一部の地域、例えば白金のハイソサエティな人たちにだけ向けてサービスを提供していました。コンシェルジュの提案するレシピは購入単価が1食3万円ぐらいするけれども大変好評で、今までにない先進的なサービスとしてメディアに取り上げられました。それに気を良くした経営者が、「これを全国に展開したら1店舗あたり、コンシェルジュが捕まえるお客様が1日30人だとすると、30人×3万円=90万円、1ヶ月で2700万円の売上増になる、こんなお得なことやらないわけには行かない」と考えました”

これを事業化したら失敗するのは目に見えていますよね。なぜなら白金というターゲットに特化したサービスが全国で同様に受け入れられるはずがないからです。あまりにも単純な例えではありますが、世の中のPoCにはこれと同様の構造を持った失敗例がたくさんあるのです。

「テクノロジートレンドに明るく裁量権を持つ人物」が旗を振る

現時点においては、PoCには技術的なブレイクスルーが大きなウェイトを占めていることは覆すことのできない事実です。このため、
最新のテクノロジーに対するリテラシーが高く、かつ判断を下す裁量を持った人物ががプロジェクトの旗を振る必要があるでしょう。

それは例えばCTO、CMO、CIO、もしくは事業部長といった役職の人物が望ましく、現場の人物だけで進めると絶対に成功しません。例えば、前述のスマートシェルフのPoCにおいては自治体の首長や理事と行った人々がプロジェクトチームに参加しており、常に議論を交わしていたために、PoCの実施自体は非常にスムーズでした。

技術的進化については割り切る

PoCを経て本格導入あるいは事業化に進めるかどうかの判断の際に、使おうと思っているテクノロジーの進化を予測するのが難しい、という声もよく聞きます。導入のタイミングでその技術が古くなったり、もっといいものが登場したりするのではないかと不安になるというお話です。気持ちとしては理解できますが、そこはある意味割り切るしかありません。

特定のSoC(System on a Chip)を利用して、特定の処理に特化した小型のセンシングデバイスを開発したとします。しかし、一年後、選定したSoCはディスコンになり、代替のチップを探さざるを得なくなるということもあり得ます。そしてその時には、チップのサイズも大きくなり、ひょっとしたらロジックごと再設計を求められるケースが出てくるかもしれません。幸運なことに、カスタムメイドしたシステムと同様の処理機能をもつチップが、より安価に、より扱いやすい形で登場する、というような可能性もあるかもしれません。このようなことは今後いくらでもあり得ます。

したがって、プロジェクト自体をいかに可変性のある設計にしておけるか、ということも非常に重要になってきます。ほんの3年先の技術でも、それを予想することは非常に難しいですから。

さいごに

エスキュービズムは、ECサイトやPOSシステムを提供するだけの単なるシステムベンダーではありません。

本稿でもいくつか弊社のPoC事例を挙げましたが、リテールイノベーションに繋がるような、最新のテクノロジーを活かしたビジネスアイデアを産み出し、そのアイデアを実際に形にする取り組みを10年以上続けてきています。

来年はいよいよ5Gの商用サービスが本格的にスタートし、IoTが小売業にもたらすインパクトはさらに別次元へと移っていくはずです。

もし、形にしたい未来の姿が、おぼろげにでも見えているのであれば、お気軽にお声がけいただければと思います。

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この記事を書いた人

岩井 源太
株式会社エスキュービズム 事業企画本部 シニアコンサルタント
大学生時にITベンチャーを起業後、Webインテグレーションを提供する株式会社デジタル・マジック・ラボ、アンカーテクノロジー株式会社を経て、エスキュービズムに参画。地域振興プロジェクトのプロデューサーや域内IT普及推進を行政とともに実施するなど、幅の広い業務を経験。東証一部上場企業のWebサイトおよび、Webを用いたコマーシャルプランニング、コンテンツ戦略、SNS戦略等の企画立案に携わり、数多くの”日本初のアプローチ”を生み出す。近年は、事業計画等まで延伸したリアル/デジタルの垣根を問わないPoCの企画・立案・実行に携わり、新たなビジネスモデルの提案をし続けている。

■岩井 源太の執筆記事

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