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IT企業のチャネルシフト実践例!Amazon GOの購買体験を日本で実現したクラスメソッドのマインドとは

6月12日(水)~14日(金)幕張メッセで開催された「デジタルサイネージJAPAN」は国内最大級のデジタルサイネージ産業イベントで、デジタルサイネージの最新技術とその活用法を出展企業が紹介する展示会です。

本記事では、6月13日(木)に行われた同イベントの専門セミナーの中から、クラスメソッド株式会社の「キャッシュレスはお客様に受け入れられるか?購買体験を優先したキャッシュレス・ウォークスルー型カフェの構築と運営~秋葉原にDevelopers.IO CAFEができるまで~」をレポートいたします。

Amazon GOを視察後、その顧客体験を実現するには、と即座に開発をスタートし、2~3ヶ月でPDCAを回しつつ開発を進め、実際にカフェをオープンするまでの経緯や、フェーズごとの課題、プロジェクトメンバーが「体験を共有する」ことの重要性について、クラスメソッド株式会社代表取締役 横田聡さんが講演を行いました。

【目次】

キャッシュレスはお客様に受け入れられたかどうか

クラスメソッド株式会社 代表取締役 横田 聡氏

本日は「キャッシュレスはお客様に受け入れられたかどうか」というテーマです。
クラスメソッドで取り組んでいるキャッシュレス・レジレスのカフェ「Developers.IO CAFE」について、「なぜやろうと思ったか」「実際にお店をオープンするまでの苦労や改善」をお話いたします。

クラスメソッド株式会社の特徴

クラスメソッド株式会社は15年間おもにBtoBの技術支援、特に新しい技術が大好きで、海外の新技術を見つけては日本のお客様に紹介するということをずっとやってきました。
当社の企業理念は「オープンな発想と高い技術力によって、すべての人々の創造活動に貢献し続ける」ということです。
特にここ10年はクラウド技術に注力しています。モバイルアプリやIoT、データ分析など、クラウド技術を活用して、現在アクティブで1300社ほどの技術支援、クラウド支援などを行っています。

Developers.IO」というブログは9年間で約1.8万本の記事を公開しています。イベント関連の記事も当日に数十本の記事をアップしていますので、こちらもぜひご覧ください。

IT企業が事業会社(リテール企業)にもチャネルシフト

ここ数年「デジタルトランスフォーメーション」とか「事業会社はIT企業になるべきだ」という風に、たくさんの経営者の方がおっしゃっていますが、「IT企業が事業会社になるべきだ」とはあまり言われませんね。

しかし、海外では実際にIT企業がスーパーを買収したり、IT企業が自社で店舗を運営したりし始めています。
そこで「何かが変わり始めている?」と思ったのがきっかけで、Amazon GOを視察することにしました。

そもそもITを駆使できるのだから、事業会社をやったっていいと思ったのです。

聴講者の皆さんのなかで、Amazon GOを実際に見に行かれた方もいらっしゃると思いますが、「見てびっくりして、怖がって終わり」のことが多いと思います。
これだと何も変化が起きません。いつ黒船が来るのかビクビクするだけで、待つだけになってしまいます。

机上で終わらせずに、失敗前提、成功は保証せずに、内製で自分たちで作って高速で改善をやっていきましょう、ということでプロジェクトをスタートしました。

Amazon GOを実体験、日本でも実現したい

昨年の1月に公開されたAmazon GOに、昨年5月に視察に行きました。毎日何度もお店に行って、「どうなっているのか」、探りながら体験をしました。

Amazon GOはいわば小さなコンビニくらいの規模です。そこに様々なセンサーやカメラがついています。裏では恐らくIoTやAIなど、最新技術が使われているのだろうなと思いながらも、特に最新のITを意識せずともお買い物が出来る。そこがものすごい体験でした。

「うち、ものすごいIT技術を使っているんですよ!」というアピールではないんですね。何も考えずに商品を手に取って、店を出たら買えているんです。これが素晴らしいと思い、この体験を日本のお客様に提供したい、という風に考えました。

昨年の5月にはAmazon GOの詳しい情報は公開されていなかったので、まず、どんな技術が使われているのかを想像するところから始めました。

顔認証なのか、手の形を撮っているのか、体全体を撮っているのか、足のフットプリントを取っているのか、棚の重さや温度、光、音、しゃべっている声、何かしらデータを取っているはずだと。でもそれが全く分からず、もやもやしました。

私たちが感じた素晴らしい購買体験と、いろいろやっているはずの技術面のギャップをどう埋めていくか。まずは「やってみよう」ということになりました。
これが非常に大事で、「感動したらやってみる」、ということで始めたのです。

ゼロから作るのはナンセンス!ありもので実験しながら作る

帰国してすぐに、社員に「やろう」といいましたが、ほとんどの人がドン引きしました。
「出来るはずがない」「やったことがない」「前例がない」「これは儲かるんですか」「いつまでにやればいいんですか」「評価はどうなるんですか」……こういうこと、皆さん言われてませんか、言ってませんか?(笑)

そんな中でも「やりたい」と手を挙げた8名のスタッフとプロジェクトを始めました。繰り返し小さな実験を重ねて、そこからフィードバックを得て改善を繰り返していくというサイクルです。

5月にアメリカで体験に感動し、6月にメンバーをアサインし、7月に展示会をやりました。実際に作った時間は三週間です。三週間で展示会をやるとなった時に「ありものでやろう」となりました。

クラウドサービスにはたくさんの「ありもの」があります。ゼロから作ったら3~4年かかりますが、ありものを使えば1日でできます。
ユーザーを認証する、IoTデバイスを管理する、人物を検出する、商品画像を特定する、データを保存するセキュリティ、こういったありものを組み合わせて実現できると考えました。

要件定義には「動画」が最適

何か新しいことをしようと思うと、皆さん要件定義書を書きませんか。これは実は無意味です。
なぜかというと、やりたいことを文字に起こした段階でコンテキスト(脈絡)がたくさん失われてしまうからです。

プロジェクトメンバーはAmazon GOを体験していないため、噛み砕いてどういうことをやろうとしているかを伝える必要があり、そのために私は一つの妄想の図と動画を作りました。ポイントは絵や動画であり、文字ではありません。

この要件定義がわりの体験動画を見ると、お客様も、ステークホルダー(オーナー)も、プロジェクトリーダーも、エンジニアも、サポートも、とにかくすべての人のゴールが明確になります。

ここで体験が不自然かどうかの調整を行います。海外でいう「デザインシンキング」、行動デザインのステップです。また、図も書いて技術や機能ではなく、体験を設計することも行いました。

リテールのお客様と話をすると「こんな機能がほしい」「こんなシステムを入れたい」という話になるのですが、それよりも「どんな体験をお客様に、スタッフに提供したいのか」という話をよくします。
そっちから入らないとおかしくなってしまうんですね。

実際に作りながら「体験としてありかなしか」を判断していく

実際に作って、技術検証をしました。
ありもののクラウドサービスやセンサー、技術要素をそれぞれのスタッフが独立並行して調査し、アウトプットを全員でシェアしながら、お買い物をするというロジックはクラウドに置いています。

  • いつどこに誰がいたか
  • どこにどの商品が置いてあるか
  • いつどの棚で商品を取ったのか、戻したのか
  • いつお店から出たのか

といったことを独立動作として計算しています。

クレジット決済の仕組みを入れてみたり、通信する時にSIMを入れてみたり、スマホ認証ではなく、顔認証で入店してみたりと、様々な技術を試しながら、「この体験はありかなしか」を判定していきます。

音声注文もできるようにしました。お店で起こっているデータがすべてクラウド側に連携されていますから、お店の状態はクラウドで分かります。データ化されたものを使って決済、電話対応、チャット対応などができるのです。

デジタル・ツインといったりしますが、オフラインで起こっていることとオンラインで起こっていることをうまく総合的に干渉していくような仕組みになっています。

シーズン1での課題を元にシーズン2へ

この時点での課題は、モノを買う時にいたずらされたり、複数人が重なって何かやろうとすると認識しないとか、そもそもQRコードの認識での入店は体験としてはいまいちでした。

QRコード決済を使う方はお分かりかと思いますが、完了までツーステップくらい必要なんですね。その体験の悪さも改善したいと思っていました。

より良い体験を提供するため、シーズン2に移ります。

クラウド側で画像認識をしていたものを、エッジ側で認識できるシステムにしたり、さらには自分たちで設計図を書いてマイコンなどのパーツをハンダ付けしたりと、ソフトウェア開発の企業ですがハードウェアも作り始めました。

とにかくスムーズな体験重視で、技術は二の次と割り切って進めていきます。

リテールテクノロジーの展示会ではデータ分析の話が多いと思いますが、データ分析は基本的に「過去のデータ」を扱います。過去を振り返って統計を取って、次どうしようかと考えます。
しかし私たちのプロジェクトでは、今まさにお店で起こっている「リアルタイムのデータ」を元に次のアクションをどうしようかと判断することができます。

初めての「実店舗運営」という体験がもたらしたもの

実店舗は初めてでしたので、様々な許認可、内装工事、カフェスタッフの採用など、やったことのない業務が複数ありました。普段リテールの方が現場でやっていることを自分たちでも体験し始めます。店舗の立地を考え、どうやって集客しようか、どうやったらリピーターになっていただけるような体験を提供できるか。オンラインで提供している体験をオフラインでも同じように提供したいと考え始めます。

エンジニアが体験することで、店舗運営側は「何に困っているのか」「どこに力が入っているのか」「何に時間がかかっているのか」「何にお金がかかっているのか」といったことが把握できるようになりました。

1月末に社内でテスト配信をして、2月12日に「Developers.IO CAFE」がオープンしました。2018年5月にAmazon GOを体験してから8ヶ月のことです。

秋葉原初、レジレス・キャッシュレス・ウォークスルー・モバイルオーダー・カフェ併設、社員食堂としても使える店舗です。

「Developers.IO CAFE」はAmazon GOのような仕組みを提供していますが、ここでポイントなのは、技術的なものはほとんど真似ていないこと。
その時点ではAmazon GOの技術が公開されていなかったからです。

オープン時の実績

オープン初日、113名の方がアプリを新規登録して、売上2.5万円、客単価は400円くらい、購入回数122回でした。
クレカ登録数113というのは、ユニークユーザーで、しかも来店客数と同じになります。現金を扱っていませんから、アプリを使ったお客様がその日の全体数なんです。これは今までのリテールにはない考え方だと思います。

シーズン3も絶賛改善中

現在進行形でいいますと、「ダッシュで買えるか」という実験をしたり、アプリの改善として決済手段を選択できるようにしたり。apple Payでメルペイが使える形にしています。google Pay、LINE Pay、AliPayまで使えるようになっています。

Amazon PayやWeChatPayも技術的には簡単です。利用者が持っている何かしらの決済手段で体験ができるものを提供しています。

高速に改善を繰り返すことがポイントです。

レジレス・キャッシュレスの店舗を作って見えてきたこと

エンジニア、来店されるお客様、お店で働いているスタッフが一堂に会して一日過ごしていると様々な景色が見えます。
「外部に丸投げで請負発注!」のようなことをやったら絶対に失敗するんです。

できれば、こういった新しいことをするときには、お店に近い場所でお客様が見えて、働いているスタッフの顔も見えて、エンジニアもそこに入っていくのが一番いんじゃないかなと思っています。

路面店ですので、スマホを持っていないお客様が来店されたり、現金が使えないことで怒ってしまわれるお客様も最初はいらっしゃいました。
しかし、スタッフからすると「レジ締めがいらない」ことでかなり賞賛されました。ほんとにすぐ帰れます。

オープンして一ヶ月経ったら、カフェのコンテキストが分かっているお客様がどんどん増え、半分がリピーターになってきました。文句を言うお客様もどんどん減ってきます。何事もなかったかのように、レジレスキャッシュレスで体験をしてくるようになってきます。
そこにいる人が慣れるまでの環境をどう作るかがポイントになります。

認証と決済をどう分離するか

モバイルオーダーは来店前に注文しますので、どこでお金を取るかです。今の仕組みでは、注文時にキャプチャしています。もし来店しなかった場合は、店長の匙加減でリファンドしています。

ウォークスルーについては、来店時にオーソリしています。お店を出たあと、1時間経ったらキャプチャしています。なぜかというと、間違って商品を取ってしまった、ということが起こり得るので、先にキャプチャしてしまうとリファンドの手数料がかかってしまうからです。
ですので、十分な時間をおいてからキャプチャをしています。

電子マネーはFericaとか対応したいなと思っているのですが、ここもポイントで、QRコード決済やFerica決済はあくまでも金額確定してその場で決済となるわけです。「対面」で「同期決済」なんです。
しかし、モバイルオーダーやウォークスルーでは、「非対面」で「非同期決済」になります。オンラインでの決済と変わりません。
もし、「Developers.IO CAFE」でQRコード決済やFerica決済を導入する場合は、そこを設計しなくてはなりません。

NFCで入店できるようにしました。アプリは起動せず、端末にスマホを近づけるだけです。アプリは表では起動していませんが、裏では起動していて、そのアプリにクレカが登録されています。ですから、NFCで入店して、クレカで後払いするわけです。国内だと「PiTaPa」などがそうですね。同じ交通系ICカードでも「Suica」は基本的にプリペイドカードなので、少し違います。

認証と決済をどう分離するか、どのタイミングで何をやるか、ということが非常に顧客体験に影響を与えると考えています。

シーズン4、そして二号店出店へ

ここからが新しいコンテンツです。
多くの方に使っていただくために、まずソフトの横展開、ハードの横展開、そしてプラットフォーム化を進めています。
ハードは量産するために工場に発注しました。会社で初めてプリント基板を作りました。エンジニアとしては夢の、自社ブランドのロゴが入った基盤です。なぜか社内にこうした基盤の回路が書けるエンジニアが何人かいまして、やってもらいました。

リアルタイムで状況を把握するような動きもより洗練をしてきます。これまでは用意されたサービスを使っていましたが、より特定の業務にフィットするように自分で教師データを用意して学習モデルを作るということも始めています。流行りのマシンラーニングというものです。

他に、入店する時のゲートの製作も始めました。センサーとアクチュエーターまで手を出し始めています。
そして、二号店出店に向けて動いています。多くの方に使っていただいて、そのフィードバックから高速にサービスに反映させていくことを突き詰めていくと、良いものが出来上がるんです。

Amazon GOを開発した彼らのパッションをコピーしたのです。テクノロジーをコピーするのではなく、文化をコピーするのです。それがこのプロジェクトの源泉です。

Amazon GOの種明かし「Re:Mars」で公開されたテクノロジー

6月初めに行われた「Re:Mars」というイベントで、Amazon GOの構成図が発表されました。
答え合わせをしたところ、結果的に、やっていることはあまり変わりませんでした。
これは一つの答えかもしれませんが、後出しで評価してもそれほど意味はないのではないかと思います。やってみて体験することで、私たちは他社よりも非常に高い知見を得ることができて、次につなげることが出来ています。

「まずは、やってみよう」ということで、もしコンシューマーのお客様をクライアントでお持ちでしたら、やってみてはいかがでしょうか。

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